は?と。

思わずこぼせば、電話の向こうでがたがたと騒音。それから聞こえたのはミヤケの声と、乃詠さんの声。──そして。



『ああ、千瀬?

いま出てこれそうにないの?』



「……十色さん」



名乗られなくてもたやすくわかる、あの人の声。

口に出したせいか幹部が俺に「どうした?」と言いたげな視線を向けてくるけど、それよりも優先するべきことは、莉胡だ。



「莉胡が倒れたって、」



『ただの熱中症だけど、気分悪そうだからとりあえずこっちで面倒見てるよ。

心配しなくても調子よくなったら家まで送り届けるから』



出てこれないならだいじょうぶだよ、と。

静かに告げる十色さんの声に、敵意も何もない。──莉胡を大事にするその気持ちだけは、たぶん、一緒だから。




「……わかりました。

とりあえず、落ち着いたら莉胡でもミヤケでもいいんで、俺に連絡入れるように言っといてください」



『相変わらず過保護だね、千瀬』



「元カノの連絡ですぐに迎えに行く十色さんも同じだと思いますけど?」



『元カノ、ねえ……』



しみじみ。

そんな言葉がぴったりな様子でつぶやいた十色さんは、『元、じゃないかもしれないよ?』と怪しげな笑みをひとつ。



「……タチの悪い冗談は嫌いなんで」



その返事すらも予想していたかのように楽しげに笑った十色さんは、電話の向こうで「莉胡」とその名前を愛おしげに呼ぶ。

この人が莉胡に向けるその感情が恋じゃないのだとしたら、それは。