もう必要ないと、彼女が言うのなら。
──これはただ、俺のわがままでしかない。
【Side Chise】
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◇
「ごめん遅くなって」
がちゃりと。
本来なら外部の人間の出入りを許さないドアの、向こう。──西の王様は、俺を一瞥してから「いや」と口を開いた。
「幹部もいま帰ってきたところだ。
莉胡に何か言われなかったか?」
「今日は会ってないよ」
……朝方、莉胡が起きる前に顔は見たけど。とはさすがに春に言えないし。
答えつつ羽泉にすすめられた席に腰掛け、スマホを確認するけど連絡はない。
十色さんと莉胡が付き合ってた時は俺も月霞の人間だったから一緒にいることが多かったけど、最近はすこしずつ、一緒に行動することは減ったような気がする。
幼なじみの距離感って、たぶん、こんなもの。
──由真に会うというのは、嘘だ。
「それで。
……わざわざ俺を倉庫にまで呼び出してするような話ってなに?」
協力してほしいことがある、と春に言われた時はあっさりうなずいたけど。
まさか倉庫に呼び出されるとは思わなかった。ミヤケが知ったら爆笑されそうだ。むかつくから今度会ったら脛でも蹴ってやろう。
「この間、西の傘下の下っ端がやられた。
……闇討ちだったのと、証拠がなかったので相手は特定不能だ。──が、幹部を全員外に出して、片っ端から調べさせた」
「まじで荷が重いんだよ〜。
闇討ちの被害報告がきてから数日で全部調べろとか言い出したんだぞこいつ〜」
ありえねえ、とこぼすアルトの顔色は、確かにあまり良くはない。
話を聞けばどうやら本当に4人で片っ端から調べ上げたらしい。その分春がほかの仕事を全部受け持ったらしいけど、一体どこのブラック企業だ。
「でもその結果はちゃんとあったんだよねー。
……指示してたのは、東のトップの人間だった」
にこりとした表情から一変。
めずらしい千咲のまじめな表情で告げられたそれに、十色さんも甘いな、と思う。