「それにしても。
……何があるかわからないものだね」
「……え?」
映画を観ながらお父さんがつぶやいた言葉に、首をかしげる。
お母さんは途中で買い物に行ってしまったから、家にはわたしとお父さんだけだ。映画の迫力あるBGMが流れる中で、穏やかに口を開くお父さん。
「莉胡は、昔からずっと何かあれば"千瀬"って言ってただろ?
いまだに、それは変わらない」
「……だって幼なじみだから」
すぐ隣にいることが、当たり前で。
千瀬がそばにいないと、どこか落ち着かなくて、違和感があって。
その空白を埋めるみたいに、何かあればすぐに千瀬と言っていた。
──いまもその癖は抜けてくれなくて、空いている自分の隣が、気になって仕方ない。
「七星家も、うちも。
莉胡と千瀬は当たり前のように一緒にいて、そのうち付き合うようになって、違和感もないぐらい自然と結婚すると思ってたんだ」
「……そんなの、」
「特に千瀬は、莉胡のことを本当に大事にしていたからね。
だから昨日、彼女ができたって聞いてみんなおどろいたんだよ」
たしかに千瀬は、わたしのことを本当に大事にしてくれているけれど。
だからといって彼に彼女ができたこととは、また別物だと思う。──だってそれじゃあ、まるで千瀬がわたしのことを好きだったみたいだ。
「でも莉胡にも千瀬にも、思ってることはある。
それぞれの人生なんだから、好きに生きるといいよ」
千瀬がわたしを好きだったなんて、きっと、そんなの嘘だ。
……そうじゃないと、わたし。
──思い出すのは、何年も前の話。
これ以上過去の自分に嫌悪するのは嫌で、誤魔化すように意識を映画へと向けた。