「附箋は一応張ったけどさ、大学、絶対行かなくちゃとかも全然思わなくていい。」
木々を通り抜けてきたわずかな涼風を感じようとするように
先生が空を仰ぎながら言う。
「南条は英語も出来るし、国大の模試も良いって言ってたじゃん?
だから生かしたらいいかなー、と思っただけだけど。
もっと縛り無しで好きなものを探すとこからやっていいと思うから、進学しなきゃとか思わなくていいと思うんだ。
なーんて。
こんなこと言ったのバレたら、進学率上げたい上の先生たちに怒られちゃうかな?」
先生がいたずらっ子みたいににやっと笑う。
それから
「まー時間があったらでいいから。」
と付け足した。
それから先生と私はしばらく黙って風に吹かれていた。
昨日よりは爽やかな風。
先生と二人。
心地好い時間。
グラウンドに何度目かの砂埃が舞った時、不意に先生が腕時計に眼を遣る。
「じゃ俺、そろそろ戻るな?」
先生が立ち上がる。
ちょっとだけ、行かないで、と思う。
そんな気持ちがつい表に出てしまって、思わず先生に呼び掛ける。
「先生。」
立ち上がってズボンの後ろをパタパタと叩いていた先生が手を止める。