「南条はさ、やってみたいこととか、好きなこととかないの?」

「んー…それもない、かな?」

「ひとつも?」

「…うん。」

「小さい頃とかは?」

「親の言うように学校の先生になるものと思い込んでたから。」

「そうか…」



先生は顎に手を当て、何か考え込んだ。



二人で黙り混んでしまうと急に蝉時雨が大きくなったように思える。

それは激しい耳鳴りのように私の思考を停止させる。

ひとところを見つめて思案している先生に反して、私はぼんやりと先生の長い睫毛が美しく瞬くのを見つめていた。



やがて先生が口を開く。





「やっぱ、なんか夢があるとさ、人って頑張れたり、気持ちが救われたりすると思うんだよ、俺は。」



先生は私の隣に来て、私と同じように石垣から下に脚を投げ出して座った。



「だから俺、南条にも何か

『これは好きだなぁ』とか

『やってみたいなぁ』とか

思えることがあって欲しいと思うんだ。」



先生が優しい笑みを浮かべて私を見る。



「だからさ、俺、」



言葉を切った先生の美しい瞳に、真剣さが宿る。





「それを南条と一緒に探したいと思う。」





先生の言葉は優しく手を差し伸べるようであり、でも決して逃がさないような強さがあった。