「そんなこと気にしないで。

不可抗力なんてよくあることじゃん。

気にしてたらこの仕事やってけないよ?」





「え…」



先生は面食らって私を見た。

至近距離で視線が交わる。

もう少しだけ背伸びすれば唇も触れてしまいそうな距離。



「南条…?」



幽かに掠れた先生の声に少し緊張感を感じる。



困ってる?

困るかな?

まぁ困るよね…



そう思って、

「ね?」

と私は笑って見せ、何もなかったように伸び上がっていた踵を地面に着ける。





すると、突然

先生が右手で私の左肩を掴み、引き寄せた。



(!!)



いつも華奢に見える先生からは思ってもみないくらいその力は強くて…



そう言えば学校でパーカーを羽織ってると見えないけれど、
ここで半袖のTシャツの袖口から覗く腕は意外と筋肉質なのに気付いてた。



(先生…?)



水が流れてシンクに弾ける音だけが響く中、私たちは見つめ合っていた。

真剣な眼差し。

そして次第にその距離が少しずつ詰まっている気さえする。

鳶色の瞳に映る私の瞳までもが見える。