「出来ればいつまでも成長を見守りたい生徒なんだよ。
でももう高3だろ?
花嫁の父のような心境だよ、俺は。」
「ミヤさん、花嫁の父なったことあるんすか?」
「にっしゃん、混ぜっ返すなよ。」
「俺ね、いつか結婚して娘が生まれたら『ユリカ』って名付けたいんだ。
『揺れる花』と書いて『揺花』。」
「それ、嫁さん嫌がりますよね?」
「にっしゃん!」
にっしゃんのツッコミもそれを止める俺も気に留めず、先生は幸せそうに微笑む。
宇都宮先生にとって神川は『娘』。
俺にとって南条は─?
テーブルに頬杖を突いて口の中で枝豆を転がしながらぼんやり考えていると、
「なーに考えてんの?」
と向かいに座るにっしゃんが顔を覗き込む。
「別に何も。」
なるべく顔に出さないように無機質に応える。
が、にっしゃんは
「ふーん…」
と言ってニヤニヤ俺を見ている。
「南条のこと?」
「!…
なわけないだろ。」
「いやいや。とか言って実際は『俺が恋の進路指導してやるよ!』とか言ってたりして?」
「は!?何そのセンスない台詞。」
(全くコイツは…
人の心に土足で踏み込むような真似をする。)
大丈夫、南条とは何もない。
進路指導して宥めただけ。
コイツに俺の本音は見透かすことは出来ない。
大丈夫…