「空いてないよ。中間試験の問題作るんだから。」
「そんなこと言わんで俺とデートしよ?」
「は!?何言ってんの。」
俺は冷ややかな眼でにっしゃんを見るけれど、にっしゃんは意に介せずぺらっと何かのチケット2枚を俺の前に見せた。
「音楽の岸先生のコンサート、付き合いでチケット買わされてさぁ。しかも2枚。
だから付き合ってよ。」
チケットには『クリスマスオペラコンサート』とあり、出演者欄には『テノール 岸昌弘』と岸先生の名前が書かれている。
「そんなの宇都宮先生誘ってよ。」
「ミヤさんも、それから職員室中みんな買わされてんだよ。ちなみにミヤさんは彼女と行くから。」
「え、俺そんなん聞いてないよ?」
「新人は金ねぇから岸先生が遠慮してくれたんだよ。で、代わりに俺が誘ってやってるわけ。」
「誘って貰わなくていいんだけど…」
言いながらにっしゃんに押し付けられたチケットを、つい勢いで受け取ってしまう。
と、にっしゃんが右手の掌を俺に差し出す。
「何?」
「4,000円。」
「えっ!金取るの!?岸先生は遠慮してくれたのに!?」
「とーぜん。」
「…財布、職員室だから。」
「じゃあ付いてく♪」
にっしゃんは踵を返して、さっさと職員室に向かっていく。それを仕方なく後を追う。
俺は渋々ロッカーから財布を出し、4,000円をにっしゃんの掌に乗せた。