「一番線、ドアが閉まります。」



自宅の最寄り駅で電車を降り、ホームをのろのろと歩く。

お母さん、帰ってないといいな…

泣いた顔は見られたくない。

階段を降りる足取りも自然と重くなる。



どこかで時間潰して帰ろうか…

そんなことを考えながら俯いたまま改札を抜ける。



駅舎の外に出ると、西の空だけが幽かに紫色がかるのみで頭上はすっかり黒々と暮れていた。

その夜空を冷たい北風がひゅうと舞う。



「舞奈。」



その時、やにわに誰かが私を呼んだ。



反射的に声の方へ顔を向けると、真正面にガードレールに寄り掛かる清瀬くんの姿が見えた。



「…え、なんで?」



思わず足が止まる。

すると清瀬くんの方がこちらに歩んできた。



「遅っせーよ。

ここ、意外と寒いんだけど。」



言葉とは裏腹に清瀬くんの顔は笑っていた。



「なんで…?」

「どーせ駅一緒だし、帰る方も一緒じゃん。」

「待って…」

「たよ。」

「…!」



清瀬くんが私の顔を覗き込む。



「あれ?」



あ…



泣き顔が、ばれた…?



私は恥ずかしくて慌てて下を向く。



何か言われるかな…

そう思った時、



「寄り道して帰っか。」



清瀬くんは言った。