「あ…」
あぁ…
そうだよね…。
先生と私は─
「それに南条は妹なんでしょ?」
先生は微笑む。
優しい笑顔で、ふわりと。
「…そっか。
良かった!」
だから私も精一杯の笑顔で微笑む。
「今日はもう終わり。帰るね。」
「あ…あぁ。」
私は赤本とペンケースをぞんざいにスクバに放り込むと席を立った。
「さよなら。」
ドアに手を掛けると先生が背中に声を掛けた。
「南条。またいつでも来いよ。」
私は振り向いて小さく微笑む。
廊下に出てドアを閉めると、景色が滲んで歪んだ。
その場に崩れ落ちたくなる気持ちに鞭打って昇降口に向かう。
分かってたことじゃない。
先生は先生、私は生徒─
先生は私のこと妹と言ってくれるけど、でもそこまでのことで。
それで良かったはずなのに、何か思い上がってたのかな…
欲張りになり過ぎてたのかな…
今はただ、胸が痛苦しい。
(泣かない!泣いたってしょうがない!
分かってたことじゃない!)
駅までの道を走る。
そしてホームを端まで駆け、来た電車の一番先頭の車両に乗り込んだ。
人の少ない車両の空いたボックス席に一人座ると、次々と涙が溢れ出した。
それが制服のスカートを濡らしていく。
手の甲で涙を拭う。
窓の外では既に暗くなりつつある空に冬の夕陽の紅い光輪だけが残りキラキラと揺れていた。
* * *