彼女の微笑みが全てを許してくれているように、その時の俺には見えた。



俺を許し、その全てを包み込んで安息を与えてくれる神のようだと思った。



彼女を引き寄せ、抱き締めそうになる。



否。



俺は逆に抱き締められたかったんだと思う。



神の御胸に抱かれるように、全ての悩み苦しみを許されて、守られていたいと願ったんだと思う。



今にも叫び出して泣き出してしまいそうだった。

胸の中で重く澱んだ何かが渦巻き膨らんで、張り裂けそうなのを、全て彼女に吐き出してしまいそうだった。



「せんせ…」



呟くように俺を呼ぶ甘く、それでいて不安げな声に脳が痺れ、理性の堰が決壊する。



いや、する瞬間だった。





「燃えるゴミの袋どこー?」

不意に誰かの声が近付き、慌てて離れる。



「…南条、早く冷やしとけ。保冷剤持ってくるから。」

「…はい。」




流し場を後にする。



(…俺、

何やってんだろう…)



まだ夢うつつのように痺れている頭を振った。

     *  *  *