「もうこの話は終わり。



ほら、問題集早く出して!シェイクも溶けるよ!!」



先生はいつもの調子で微笑んで言うと、急かすようにテーブルをコツコツと叩く。



「あ…はい…」



先生がコートとマフラーを脱いで椅子に掛けている間、私はそっと自分の唇に触れる。



先生の長くしなやかな指が触れた感覚が蘇り、頬が熱を帯びる。



『大人になってゆく姿を未来永劫傍で見てられるわけじゃないだろ?

俺はそんなの…

嫌だから。』



ねぇ先生?どういう意味…?



「ほら南条、早く。」



「…はい。」



コートを脱いで奥のベンチシートに座る。



先生は眼の前にいるのに、訊けない。



きっとこのことは…

訊かない方がいいんだ。

そう直感する。



『私のこと、好きですか?』



訊いてしまったら今のまま居られなくなる。

先生の優しさに守られているこの平穏で実り多い日々が終ってしまうんじゃないか。

そんな気がして…

     *  *  *