窓際の少し広いテーブルに先生がトレーを置く。



上階は更に人が疎らで、私たちはまるでふたりきりしか居ないかのように
そこで立ち尽くしたまま互いに視線を逸らせずにいた。



(何言ってるのか分かんないよ、先生…)



それは私のこと、嫌いってこと?

でもこうして優しくしてくれるのはどうして…?



困り果てて唇を噛んだ時、先生がゆっくりと、静かな口調で語り出す。



「お兄さんは今までの南条を全部知ってるかもしれない。

けど、これから大人になってゆく姿を未来永劫傍で見てられるわけじゃないだろ?



俺はそんなの…

嫌だから。」



「!!…先生?」



先生の真っ直ぐな眼差し。

その艶やかな深い鳶色の中に私が映る。



ねぇ?それって…

それって…?



先生が瞳を伏せる。

どこか切なげな長い睫毛。



「ごめん…つい。

こんなこと言うつもりじゃなかったんだけど…」



「先生…

先生私のこと…」



私のこと、好きですか?─



心臓がうるさいほど脈動する。



ねぇ先生?



私のこと、好きですか?─





言いかけた唇に先生の人差し指が触れる。



「!!」