「ごめん。怖かったか?」
怖かったわけじゃない、多分。
名前の付けられないこの感じ。
なんだろう?
分からない。
少しだけ瞳に涙が滲んで、私は先生のパーカーのフードに額を押し当てた。
先生のお腹に廻した私の手を先生が握ってくれる。
先生はしばらくそのままそうしててくれた。
時計の針の音だけが響く。
やがて少し気持ちが落ち着いて、そっと額を離す。
「ごめん…冗談が過ぎた。」
「うぅん…そうじゃないの。」
「じゃあ…大学入ったら悪い男に、なんて、脅し過ぎた。」
先生が私の腕をそっと解き、こちらに向き直る。
そして私の頭にそっと掌を置いて、顔を覗き込んだ。
いつもの優しく煌めく眼。
「大丈夫、南条は。
大学行っても俺がちゃんと…」
そこまで言って先生の唇が止まる。