暗い瞼の裏を見ながらしばらく時が経った。

長く感じられたけれど、本当は数秒だったのかもしれない。

不意に眼の前が明るくなる。



私はゆっくり瞳を開けた。



先生は壁から離した手をポケットに入れ、私から少し距離を取って正面から私を見遣っていた。



「なわけないだろ。」



先生がにやりとする。

いたずらっ子の顔。



(え…)



「分かんないよなぁ。女子校育ちのお子様には。

俺だから良かったけどさ、あんまり男、可愛いとか思ってんなよ?

お前みたいなお嬢、大学なんか入ったらあっという間に悪い男に喰われるぞ。」



そう言って先生は、私が落としたメモを拾って私の手の中に押し込み、
それからくるりと背を向けてデスクの上を片付け始める。



先生の背中を見つめていると、不意に視界がぼやける。

涙?

なんでだろう?

怖いの?寂しいの?切ないの?

自分でも掴めない複雑な気持ち。



思わず私は先生の背中に抱き付いた。

先生が驚いて振り返る。