先生は更に、突いた左手を壁に沿って上方にずらし、肘を突いた。

先生の整った顔が、更に近い…



感じたことのないくらいの激しい胸の脈動に目眩がする。

クラクラしてどうすることも出来ず、先生の瞳をただ見つめていた。

綺麗な二重瞼と長い睫毛。

でもその視線は私を咎めるようだ。



先生が再び口を開く。



「それに俺、男だし。」



先生は私に身を寄せ、少し掠れた声で耳元に囁くように言う。



「自分の状況分かってる?」



その一言にはっとする。

唇を奪われちゃうとかは容易い状況。

ましてやこんな時間の、それも英語準備室なんて誰も気に留めることもない。

それ以上のことだって出来かねないシチュエーション。



胸の中を渦巻く不安と羞恥。



「…せん、せ」



「今更そんな可愛い声出してもダメ。

ていうか余計状況まずくなんの分かんない?」



先生の髪と吐息が私の頬に触れる。

熱を持つ頬。

破裂しそうな心拍。

手にしていた先生のメアドが書かれたメモがはらりと落ちた。



でも…



先生にならいいかな、なんて少し思ってしまう冷静な自分もいて…



混乱しながら私はきゅっと眼を閉じる。



どうしたいかは分からない。

けれどそれしか出来なかったから。