教卓の前まで出ると、そこにいた私を呼んだクラスメイトが

「初原先生が呼んでる。」

とドアを親指でおざなりに指す。



「…ありがと。」

呟くように礼を言って、のろのろと先生に向かう。



教室中の視線が先生と私に向けられていた。

その視線を避けるように廊下に出て、教室から死角になる壁際に立つ。



先生は手にしていた封筒を私に差し出した。

少し大きいその封筒は外語大の大学名や学部名、住所が印刷されたものだった。



先生が言う。

「これ、市川から。」




市川─夜璃子さんからの手紙?



「あの後、あの場で書いてた。何書いたかは知らないけど。

読んでやって?」



封筒を受け取ると、

「じゃ。」

と直ぐに先生が背を向ける。



「あっ、あのっ!」

歩み去ろうとする先生を呼び止める。



「ありがとうございます。」



先生はいつものように甘い笑顔で微笑んで、階段の方へ姿を消した。