私はひとつ空いたスツールに腰掛け、小さなメイクポーチを取り出す。

いつもは日焼け止め程度でほとんどノーメイク。

今日は特別。

ちょっとだけ、ちょっとだけ可愛い私でいたい。

だって学校の外で先生と待ち合わせなんてめったにないんだから─



少しだけ緊張する指でリップを塗る。

頬と額をティッシュで押さえて、髪を念入りに梳かして。

それから、いつもはお気に入りのワンピースと一緒にクローゼットの籠に大事にしまってあるパープルの小瓶のオードトワレをふわりと纏う。



ちょっとは可愛くなれたかな?

先生の隣を胸張って歩ける私に…

なれてるといいな。



パウダールームを出る時、私の隣でメイク直しをしていたブレザー姿の女子高生と同時になった。

彼女は

「お待たせ~!」

とパウダールームの前に待たせていた彼氏らしき人の腕に飛び付き、ふたり腕を絡ませて去って行く。



(制服デートかぁ…)



ちょっと…羨ましい。