「今日はありがとうございました。」

「こちらこそ、お邪魔致しました。」

先生が玄関の扉を開ける。

そこに私が2階の自室からショートコートを手に駆け付ける。



「私!

駅まで先生送ってくる!!」



ホールに立つ母の前に回り込み、素早く靴を履くと、先生の背を押して一緒に外へ出る。



「舞奈!」

母の声が追ってくるけど気にしない。

「行こっ!先生!!」

アプローチを駆けて門を開ける。



先生の隣を歩く。



「うちの場所すぐ分かった?」

「あぁ。

前に近くまで送りに来たことあったろ?
だからすぐ分かった。」



夏の終わり。

先生の研究の話に夢中になって帰りが遅くなった時、先生は遠回りして送ってくれた。

駅からそんなに遠くないから全然いいのに、先生は

『その分もっと話せるから。』

と言って、わざわざ自分の家と違う路線に乗って送ってくれた。



あの時の果てなく続く研究の話は本当に楽しくて…

幸せな時間だった。



あの日のことがなかったら今も夢のない私のままだったと思うと、不思議な感じがする。



「覚えててくれたんだ?」

「普通生徒の家まで送ることなんてないからな。」

「もしかして私だけ?」

「…さぁ?」



さぁ?って何?