先生の家は昼間歩き回った住宅街の中にあった。

ただそれは他人の家の庭のような小道を進んだ袋小路で、到底普通に見つかるような所ではなかった。

それに、暗いのではっきりとは分からないけど、古さもちょっとどころではなさそうな外観。

更に、石造りの壁に曲線が美しいアイアンの手すりや柵が取り付けてある様は瀟洒を通り過ぎてヨーロッパのアンティークのようで、とてもアパートにも見えなかった。



「適当に座って。

寒かったろ?コーヒー飲むか?」

外観とはうってかわって綺麗にリフォームされた部屋の中に入ると、先生が小さなキッチンでお湯を沸かす。



「ありがとう、ございます…」



私は上着を脱いでフリンジが可愛いスウェットワンピ姿になる。

そして膝に上着を掛け、ベッド脇の床にぺたんと座る。



先生の部屋は、テキストやプリントでいっぱいになったローテーブルを除いては、綺麗に片付いている。

パソコンがひとつ置かれただけのデスクと椅子。外国語関連の本が詰まった本棚。

シンプルなカバーの掛かったベッド。

それと、初めて逢った日に見たキャリーバッグが隅にあった。



先生はキッチンから戻ってくると、

「冷えるからこれ敷けよ。」

と、ブラックウォッチのキルトのカバーが掛かったクッションを私に渡してくれて、自分も隣に座った。