「もう大丈夫だ。」

先生が大きな掌で優しく私の頭を撫でる。



「せんせ…こわ、かった…」

震える声で言うと、先生は私の背中に両腕を回し抱き締めた。

息が苦しいほど強く力を込めて。



長い長い時間先生はそうして私を抱き締めてくれ、
やがて肩の震えが治まると、優しく花壇の縁に私を座らせ、隣に先生も腰を下ろす。

それから自分のブルゾンを脱いで私の肩に掛けてくれた。

ほんのり夏の青葉の向こうに煌めく陽を思わせる香りに包まれる。



「南条、こんな時間にこんなとこで何やってんだ?」



「…先生に…逢いたくて…来たの。」



先生が溜め息を吐く。



「親御さんは?」



私は首を振る。



「家出?」

「家出じゃないもん。…ストライキだもん。」

先生がふっと笑う。



「同じじゃん。」

「同じじゃないもん。要求を飲むまで帰らないんだから!」

「向こうにタクシー乗り場があるから。

今ならまだ車があるだろうから行こう。」

先生がすっと立ち上がる。



けど私は─



「南条?」

「イヤ!帰らない!」

私は座り込んだまま先生から顔を背けた。