肌を斬りつけるような鋭い空気。呼吸をするだけで肺には氷のように冷たい空気が体内を搔きまわすかのように広がっていった。
それでも、そんな事はどうでもよかった。そう、どうでもよかったんだ。自分はただ、目の前の彼女の事だけで頭がいっぱいだったからだ。
「一つだけ、お願い事を聞いてほしい…」
緊張と空中に漂う冷気が混ざり合い俺の声を震わせた。体は確かに冷たかった。それでも、体の内側から広がる体内を焼き付けるような熱が身体中を支配していた。
「うん、いいよ。私にできる事だったら…」
目の前の彼女の事を直視することができない。今、彼女を見てしまったら何も話せなくなる。それだけの緊張感と不安が微かな希望だけを支えに今の俺を形作っていた。
「えっとさ…その…」
「うん…?」
その時だった。冷たい何かが肌に触れた。冷気で冷え切った肌でもしっかりと伝わるくらいに冷たいそれの正体はすぐに分かった。
「雪…」
歩道に備え付けられた街灯の明かりが、それを淡く照らしていた。
「本当だ…。雪、だね…」
雪の冷たさが、まるで俺の背中を押してくれたかのように気付いた時には落ち着いていた。どこまでも自然に落ち着いて入られた。
「あのさ、」
だから、しっかりと彼女の透き通った瞳を見つめながら言った。
「俺と、付き合ってくれませんか?」