その逆で、心は橘君で埋め尽くされ、会いたい気持ちが募った。
アパートを出て、大きな通りを渡れば、橘君と会えるのに、その距離はとても離れていた。
橘君はそんな私を責めることも、問いただすこともしないで、ずっと見守る姿勢を取ってくれている。それが、また私を苦しめた。
やっぱり私は、他人と関わることが出来ないのだ。それを実感する。どんなに努力をしても克服できないこともある。
勉強はやればやっただけ成績に現れた。だけど、人の心はそんなことで見ることは出来ない。
私の実験台のようになってしまってけれど、橘君と付き合ったことで、そのことを再確認できた。それだけでも彼にお礼を言わなくてはいけない。
「モモ。どこかに引っ越そう」
いつでもそばにいてくれるモモを抱いて、そう言った。
仕事場を探し、また一から覚えることは、私にとって、とても大変なことだった。
だから高校の同級生であった彼と出会っても、ここを離れることが出来なかったのだ。
でも、今は傍にいることが辛くてしかたがない。
これ以上橘君を苦しめたくない。
私に合わそうと努力をしてくれ、我慢してくれているのが痛いほどわかる。
他人に興味がなかった私が、彼のおかげで、人の思っていること、その様子を読み取ることが出来るようになった。
全く完璧じゃないし、橘君のことくらいしかまだわからない。
職場では相変わらずで、一人が心地いい。
それでも、一人が寂しいと思うようになったのは、彼がいつも傍にいてくれたからだ。
夏に戻って来た橘君とは、まだキス以上のことが出来ていない。
これは男の人にとって我慢が必要なことなのだろうか。
デートはいつも海か、散歩。
自分をもっと知って欲しいと、橘君は子供の頃の話から始まって、大学のことまでたくさん話をした。
何も思い出のない私には、何も聞かず、今の二人のことだけ話をした。
「モモ、おかしくない? 大丈夫?」
月に一度、お給料日に外食に行くのが私たちの定番となっていた。
今日は、その給料日で、橘君が見つけた和食のお店に行く。
いつも地元で駅周辺のお店に行くのだが、今日は、二つ隣の駅に行く。
橘君は、私が外で待つことを好まず、いつも迎えに来てくれるのをじっと待っている。
部屋の時計を見ると、約束の6時になっていた。
そこへ、タイミングよく部屋のチャイムが鳴った。
「はーい」
明るい声で玄関のドアを開けると、いつもの笑顔の彼が立っていた。
なんだかんだと言い訳をして会うのを拒んだ私に、何も言わずにこうした笑顔を向けてくれる。
「お腹空いたね。行こうか」
「うん」
モモの所在を確かるために部屋を見渡し、電気を消す。
戸締りをすると、自然と手を繋いだ。
「ここのところ、急患が多かったんだ」
「え?」
「季節の変わり目と、寒くなるとぐっと増えるんだよね」
「人間と同じなのね」
「そうだね」
「疲れているから、行くのはやめようとか、そんなことは考えないでよ? 俺は、黒川と一緒にいると楽になるから」
すぐに返事は出来なかった。
まさにそう思っていたからだ。お給料日の食事の約束なんか、ただの約束だ。大したことじゃない。次の日だって、また次の日だって約束は出来る。
散々、誘いを断って会うのを拒んだ私に、優しすぎる。
「風邪は引いてない? ちゃんと食べてる?」
「橘君……」
アパートを出て、川沿いの少し暗い道を歩く。
橘君の言葉が、ズキリと胸に刺さった。
「ずっと会いたかった」
アパートを出て、大きな通りを渡れば、橘君と会えるのに、その距離はとても離れていた。
橘君はそんな私を責めることも、問いただすこともしないで、ずっと見守る姿勢を取ってくれている。それが、また私を苦しめた。
やっぱり私は、他人と関わることが出来ないのだ。それを実感する。どんなに努力をしても克服できないこともある。
勉強はやればやっただけ成績に現れた。だけど、人の心はそんなことで見ることは出来ない。
私の実験台のようになってしまってけれど、橘君と付き合ったことで、そのことを再確認できた。それだけでも彼にお礼を言わなくてはいけない。
「モモ。どこかに引っ越そう」
いつでもそばにいてくれるモモを抱いて、そう言った。
仕事場を探し、また一から覚えることは、私にとって、とても大変なことだった。
だから高校の同級生であった彼と出会っても、ここを離れることが出来なかったのだ。
でも、今は傍にいることが辛くてしかたがない。
これ以上橘君を苦しめたくない。
私に合わそうと努力をしてくれ、我慢してくれているのが痛いほどわかる。
他人に興味がなかった私が、彼のおかげで、人の思っていること、その様子を読み取ることが出来るようになった。
全く完璧じゃないし、橘君のことくらいしかまだわからない。
職場では相変わらずで、一人が心地いい。
それでも、一人が寂しいと思うようになったのは、彼がいつも傍にいてくれたからだ。
夏に戻って来た橘君とは、まだキス以上のことが出来ていない。
これは男の人にとって我慢が必要なことなのだろうか。
デートはいつも海か、散歩。
自分をもっと知って欲しいと、橘君は子供の頃の話から始まって、大学のことまでたくさん話をした。
何も思い出のない私には、何も聞かず、今の二人のことだけ話をした。
「モモ、おかしくない? 大丈夫?」
月に一度、お給料日に外食に行くのが私たちの定番となっていた。
今日は、その給料日で、橘君が見つけた和食のお店に行く。
いつも地元で駅周辺のお店に行くのだが、今日は、二つ隣の駅に行く。
橘君は、私が外で待つことを好まず、いつも迎えに来てくれるのをじっと待っている。
部屋の時計を見ると、約束の6時になっていた。
そこへ、タイミングよく部屋のチャイムが鳴った。
「はーい」
明るい声で玄関のドアを開けると、いつもの笑顔の彼が立っていた。
なんだかんだと言い訳をして会うのを拒んだ私に、何も言わずにこうした笑顔を向けてくれる。
「お腹空いたね。行こうか」
「うん」
モモの所在を確かるために部屋を見渡し、電気を消す。
戸締りをすると、自然と手を繋いだ。
「ここのところ、急患が多かったんだ」
「え?」
「季節の変わり目と、寒くなるとぐっと増えるんだよね」
「人間と同じなのね」
「そうだね」
「疲れているから、行くのはやめようとか、そんなことは考えないでよ? 俺は、黒川と一緒にいると楽になるから」
すぐに返事は出来なかった。
まさにそう思っていたからだ。お給料日の食事の約束なんか、ただの約束だ。大したことじゃない。次の日だって、また次の日だって約束は出来る。
散々、誘いを断って会うのを拒んだ私に、優しすぎる。
「風邪は引いてない? ちゃんと食べてる?」
「橘君……」
アパートを出て、川沿いの少し暗い道を歩く。
橘君の言葉が、ズキリと胸に刺さった。
「ずっと会いたかった」