橘君も驚いたが、私の方がもっと驚いた。
沖縄に持って行くトランクや、洋服、バックに靴と買いあさった。
だけど、そのほとんどは、橘君のお母さんが買ったものだ。どんなに断っても、「夢だった」と言って、譲らなかった。

「橘君から言って、もう買わないでって」
「なんで? 買ってもらいなよ」

橘君は私の話を真剣に聞かず、雑誌を見ている。
私は、その雑誌を取り上げ、口をとがらせて怒った。

「真剣に聞いて」
「怒った顔もかわいい」
「!」

そう言って、軽くキスをする。

「仲良くしてくれて嬉しい。家でも話は黒川の事ばっかりだよ。どこに連れて歩いても綺麗だと言われて、自慢の嫁だって」

嫁が務まるのだろうかと、不安でしかたがない。
そんな私を、お義母さんは、「嫁じゃないわ。娘よ」と言って、抱きしめた。
ダメなものはダメとしっかり叱ってくれる所も好きだ。邪魔者扱いで、都合よくつかわれていた私にとって、気にしてくれているということは、何よりうれしいことだ。

「だって、式の費用も全部持ってくれるのに」
「だって、それはあぶく銭だ」
「もう……」
「膨れた顔もかわいい」

橘君は頼れない。
いつでもこうして話をはぐらかす。
だけど、これだけでは済まず、白無垢に打掛、イブニングドレスの写真まで撮ることになって慌てた。

「綺麗すぎて他の言葉がみつからない」

ご両親がいて、スタッフが沢山いるのに、恥ずかしい言葉を平気で言う人とは知らなかった。ここは日本なのだ。
顔から火が出るとはこのことだ。
沖縄での式は、プライベートビーチがある高級リゾートホテルのチャペルで行われ、バージンロードをお父さん先生、つまり、橘君のお父さんと一緒に歩くこととなった。

お義父さんは、私と腕を組むと、感情があふれだし、泣きながら神父のところまで歩いた。
私もつられそうになったが、なんとか橘君の前まで綺麗な顔で行きたくて、必死に堪えた。
私の親族側にお義母さんが座ってくださり、見た目に偏ることはなかった。
誓いのキスは大変で、

「絶対に頬にして、それかおでこね」
「わかってるよ、茜が嫌がることはしないと誓うから」

その言葉を信じた私がバカだった。
せっかく静かないい式が進行していたのに、誓いのキスで台無しになった。
橘君は、私の腰を強く引き寄せ、あろうことか、唇にキスをして、神父さまが咳払いをするまで離さなかったのだ。
私は、橘君の目を見て必死で止めるように訴えたのも、効果はなかった。


「新郎、離れたくないのは分かりますが、それは後で……」

と、神父にまで言われる始末だった。
式の後も家族と一緒に過ごしたい私と、二人きりになりたい橘君とでケンカになり、散々だった。