「おい!おいていくな!」
こんなに綺麗な桜を見せてくれて本当にありがとう。さっきは、案外、かっこよかったよ。
そんなことを思っていたけれど。
「絶対言ってやんない。」
「何を?」
呟いた私に、彼は追い付いて不思議そうな顔でそう言った。
「何でもない。」
「何だよ、言えよ!」
そして私の頭を、わしゃわしゃ撫でる。
「ちょっと、それやめてってば!」
乱れた髪を手でさっと直して、彼を見ると、さっきまでふくれてうるさかったのに、もう笑っていた。
「こんなに楽しいの初めてだ。」
ふわり、優しい春の風が吹く。
芝生や桜の木がざわざわ揺れる。
その音の向こうで、子どもの笑い声が聞こえる。
「また来ようね。」
桜の花びらがひらりと舞って、彼の頭に落ちてきた。その笑顔と、優しい言葉と、低めの綺麗な声が、桜にぴったりだと思う。
「うん、連れてってね。」
私達は、まだ、始まったばかりだった。