今度。その言葉は好きじゃないのに。
今度一緒に行こうね、今度お祝いするからね、また今度にしてくれる?
母の口癖は今度だった。
その約束が、絶対に叶わないことを私は知っていた。
「笑、何か言ってよ。」
でも、真っ直ぐに私を見つめる彼の目を見たら、本気のような気がして。
「うん、また、来たいな。」
ただ自然と、その言葉が溢れていた。
「笑、かくれんぼしようか。鬼ごっこがいい?」
おにぎりを2つ、缶コーヒーを一つたいらげたかと思うと、イタズラに笑いながら言った。
「…しません。」
「ほら、初心に戻ってさぁ。」
「やりません。」
「ちぇっ。じゃあいいよ!散歩でもするぞ!」
彼は、ふくれながらシートを鞄にしまって、ほら、と手を差し出す。
そのしぐさが、なんだか子どもみたいで、つい、笑いそうになった。
「凄いイケメンー!カップルかな?」
「いいわねー、若い子は。」
ふいに、おばさん達の声が聞こえて振り返ると、私たちの方を見ていた。
「…手は繋ぎません。」
「どうして!」
「そんなこと、兄弟はしません。」
「お兄ちゃんと妹は手繋ぐだろ!」
「歳考えて下さいよ!」
「そ、それは!言っちゃいけないことだぞ!ってさっきから敬語使ってる!ほら罰ゲーム!」
差し出した手をぶんぶん振って叫ぶ彼に、恥ずかしいから、と小声で話す私。
手を繋ぐのが罰ゲームでもいいのね。
本当に、変な人。
いつまでもぶつぶつ言っている彼をおいて、私は桜を見ながら歩きだした。