「小学校1年生の時、初めて遠足があったの。」

なぜか。気づいたら彼に、あの日の出来事を話していた。

「初めての遠足。

あの頃はそれなりに友達もいて、遠くに行くことも、外でご飯を食べるのも初めてだったから、楽しみにしていたんだ。

でも、相変わらず母は仕事が忙しくてお弁当なんて作る余裕もなくて、近所のお弁当屋で、のり弁を買ったの。そんな私に、母は何度も、ごめんねって謝ってた。

それでも、いつもおにぎりやサンドイッチばかり食べていた私には特別な気分だったから、これっぽっちも嫌じゃなかったの。

沢山歩いて、ご飯の時間になって、小さい子って、何でも交換するでしょ?

私の友達も、おかず交換始めちゃって。仲間にいれて、って言ったら言われたの。

笑ちゃんのお弁当は、タコさんウィンナーある?甘い卵焼きは?可愛いおにぎりは?キャラクターのチーズは?

笑ちゃんのお弁当可愛くないからいらない、って。

私、遠足に来れただけで嬉しかったから。可愛いお弁当じゃなくてもよかったから、わかったって言ったの。

でもね。その後に言われたの。でも笑ちゃん、お母さんがお家にいないから仕方ないか、って。」

そこまで話すと、彼は私の言葉に顔を歪めた。
思い出すと、なんだか胸が痛くなってきた。

「そう言われて、悔しくて。お母さんが仕事を頑張っているのに、何がいけないの?って。気付いたら涙が出てて。

でも、そんな私を見て、先生方が言ったの。
可哀想ね、先生のおかずあげるからおいで、って。」

きっと周りの言葉は全て正論だったと思う。先生は優しい気持ちで言ってくれたんだと思う。でも、私にとってそれは残酷な言葉だった。

「私は可哀想なんかじゃない。でも、きっと誰もわかってくれないから、その日から行事に行くのはやめた。」

そこまで言って、おにぎりについた花びらを一つ取った。シートの外で手を離すと、ヒラヒラと落ちていった。それがなんだか愛らしかった。