「桜…」

でも、そこには満開の桜が何本も並んでいた。

ピンクの花びらが、ヒラヒラ舞って地面を絨毯のように覆い尽くしていた。

「綺麗だな。」

「…何で?」

「言ったろ、春には花見しよう、って。」

その言葉を聞いて、今朝、たった数時間前に彼が言っていた言葉を思い出した。

「ほら、来て!」

私の手をぎゅっと握って、ぐいぐいと引っ張って前に進む。綺麗な花びらなのに、と思うとなんだか踏むのがもったいなかった。

桜の木の下には、シートを敷いてお弁当を食べる家族や、昼間だというのにビールを飲んで騒いでる人達もいて、賑やかで、みんながキラキラして見えた。

「ここ、近所の人しかこない穴場らしいんだ。すげぇ綺麗だって聞いて、絶対一緒に来ようと思ったんだ。」