運転中話しかけたら駄目、なんてあんなの人によってだと思わせるくらい、彼は安全運転のままよく喋った。
思ってた以上に、ため口は難しかったし名前で呼ぶこともできなかったけれど、少しずつ私は警戒心を解いていってた。
彼がハンドルをきる度、アクセルを踏む度、景色がどんどん変わってゆく。見たことのない家が続いていて、時々スーパーやコンビニが並んでいた。
沢山の車や人とすれ違う度、こんな風に彼と出会って、今隣にいることが、とても不思議に思えたんだ。
「よし、ここでいいかな。」
彼がそう言って車を止めた。
カチッとシートベルトを外して颯爽と降りていった彼にポツンと残された私。
(え、何、降りるの)
変なことを呟くから、目的地に着いたのかどうかも良くわからないまま、彼と同じようにシートベルトを外してドアを開けてみる。
一歩足を踏み入れると、ポカポカの暖かい日差しが私を照らした。コンクリートの隙間からは土筆が顔を出していて、なんだか春の匂いがした。