「あ、安心して?俺、安全運転だから。」

ぎゅっ、とシートベルトを握りしめていた私に彼は言う。運転が不安なのではなくて、知らない人の車に乗って、どこに行くかも分からない今の状況が不安なのだということは伝わっていないようだった。

ぱっと横を見ると、手慣れたようにハンドルをきり、アクセルを踏む彼がいた。

「こんな風にドライブすることって結構あるの?」

きっと彼は、なんの悪気もなく聞いてきたんだと思う。それはきっと、小学校の頃の友達のように、ただの好奇心で。

「…いえ。」

ついさっき、彼は家で、自分は私と同じだと言った。でも、きっと私と彼は違う。

「…助手席に座るのも、こんな風に誰かの車に乗るのも、初めてです。…笑ってもいいですよ。」

みんなにとっては当たり前のことが、私にとっては当たり前ではなかった。それでも、自分の知らない場所に行くのが好きで、1人でバスに乗ったことが何度もある。それだけで満足だと思っていた。でも、少し。ほんの少しだけ、憧れていたんだ。助手席に乗ってドライブをすること。こんな形で実現しても、ちょっぴりワクワクしている自分がいて、なんだか情けなかった。

「まじで?やった!一つ目の初めてゲット!」

突然ガッツポーズをしてはしゃぐ彼に、驚きを隠せないでいた。だって、思っていた反応と違いすぎたのだから。

「…あなたって、変ですよね。」

「え!?それ失礼。」

「だって、よく笑うし。」

「つまんないのに笑ってるわけじゃないよ。笑といるのが楽しいから笑ってるんだよ。」

真っ直ぐ前を見つめたその瞳がガラスに映って、目が合いそうで恥ずかしくてそらした。

「そういう恥ずかしいこと、簡単に言わないでください。」