彼は高価そうな、大きくて平たい車に乗っていた。車には興味がなかったから、どんな名前かは分からなかったけれど、どこかで聞いたことのある名前だった。まだ真新しい黒いボディーが春の日差しでキラキラと輝いている。

「はい、乗って。」

彼がドアを開けて、さわやかに笑って言う。

「…、ありがとうございます。」

入ると、香水かなにかのいい香りがした。

私が乗ったのを確認して、彼はパタンとドアを閉める。中は綺麗に掃除されているようでゴミや物が何一つない。

彼は、几帳面な性格なのかもしれない。食べ終わった物もすぐに片付けていたし…誰かさんとは大違いだと思った。

そんなことを考えていると、すぐに彼も乗り込んできてシートベルトを閉めた。

「よし、出発!」

そう言って車を走らせたんだ。
窓の外の景色が次々へと変わって行く。
人の車に乗ったのなんて、いつぶりだろう。