肌に張り付く制服のシャツが鬱陶しい。



赤いちょうちんが灯る道沿いを全力で走り抜けながら、俺は自分を責めずにはいられなかった。


宮下から聞いた話はあまりにも自分の予想を超えていて、いちいち驚くのも疲れるほどだった。




まさか…、あの男が、

有明の弟だったなんて。




初めて奴を見たときに抱いた既視感、俺を見据える瞳も眼差しも、有明にそっくりだったと今思い返してみて感じる。

弟という言葉によって全てのつじつまが合った。


あの男の有明の髪を撫でる慣れた手つきも


有明があんなにも心を許していたことも。



全くの土俵違いの相手に嫉妬心を抱いていたことに、恥ずかしさのあまり死にたくなる。





細い下り道から広い道路に出ると、点々と屋台が見え始める。浴衣姿の人達もちらほらと見受けられる。あと少し、あと少しで。



有明が自分を待ってくれていた。

宮下からそう聞いたとき、あんなに沈んでいた気分がすっと晴れていくような気がした。

どんな言葉も聞きたくないと思っていたくせに、本当におめでたいなと、自分でも呆れてしまう。



それと同時に、奏人に謝らなければならないと思った。そして、あんな風に何十回も電話をかけて、有明のことを伝えようとしてくれたことを2人に感謝したいと思った。





サッカーの試合で、相手陣地を鋭く駆け抜けるときのように、道路沿いを走り続けた。


心臓が身体中に酸素を循環させようとして、必死に拍動しているのが分かる。


息の苦しさに、焼けるような胸の痛みを感じたがそれでも足を休めることはなかった。



風が頬をきる。



走りながら、人混みに消えた有明のことを思った。



なぜだが分からないけど、有明に呼び寄せられているような気がした。



不安げなときに見せる有明の眉をよせた儚げな表情が頭を離れない。

嫌な予感が止まらず、今はとにかく早く有明を見つけたい、その一心だった。


宮下が有明のおばあちゃんに連絡したところ、まだ家に帰ってはいないようだ。




どうか、有明がまだ神社にいてくれますように。




今度こそ、きちんと彼女と向き合うことができますように。



そう強く願いながら、神社の赤い鳥居の連なりを走り抜け、一気に石段を駆け上がった。