「…じゃ、じゃあ次は射的でもやるか!」
あれから大分時間が経ったけれど、一向に凪原は姿を現さなかった。
そんな中で、私に気を遣ってなのかみんなが必死に雰囲気を盛り上げようとしてくれているのを感じる。
菜々が私の腕をずっと組んで離さないのは、大丈夫だよと私を安心させるためなのかもしれない。
なんだか罪悪感でいっぱいになった。
菜々だって、本当は中川と腕を組みたいと思っているはずなのに。
一生懸命、髪型やメイクを工夫して少しでも好きな人に可愛いと思って欲しいと思って準備してきただろうに、私に気を配ることで自分の想いに集中できないでいる。
他のみんなも、きっとそれぞれにお祭りを楽しみたいと思っているはずなのに、私がそんなみんなの思いを台無しにしてしまっているかもしれない。
考え出すと止まらなかった。
迷惑をかけられるのは、全くもって構わないけれど、自分がかける側に回るのはどうしても我慢できなかった。
みんなと一緒にいることが辛くなって、あんなにも浮き足立っていた気分は一気に沈んでいった。
それをみんなに悟られないようにして、いつも通りのトーンで言った。
『ごめんなさい。今、おばあちゃんから電話があってもう帰らなくちゃいけなくなったみたい。 先に帰るけど、みんなはこのまま楽しんで。』
菜々が何か言おうと口を開きかけたけど、有無を言わせないように小さく微笑みかけた。
『今日は、とっても楽しかった。…本当にありがとう。 来年こそはみんなと花火が見れたらいいな。』
薄く笑ってじゃあね、と言いひらひらと手を振ると、引き止められる前に人ごみの中に1人溶けていった。