「入るぞ」

女神国。

その王宮。

軽くノックをしたはいいが、返事も待たずして乙女は入室してきた。

「入っていいとは言っていないぞ」

「私の国だ。全ての権限は私にある」

悪戯盛りの子供のような顔で乙女が言う。

「横暴な事だ」

俺は苦笑いした。

何の用で訪れたのかよくわからないまま、乙女はあてがわれた俺の部屋に無造作に立てかけられた魔槍を眺める。

「よくこんな不吉な槍を使う気になる…」

「魔槍の呪いの件は、とうに解決したものだと思っていたがな」

壁際にもたれかかり、腕組みしたまま苦笑い。

「呪いがどうこうと言っているのではない!」

子供騙しな怪談を恐れていると思われるのが嫌なのか、乙女がやけに噛み付く。

この地最強の肩書きを手にした女神国の女王が聞いて呆れる。

そう考えていると。

「おい」

俺の見ている前で、乙女は立てかけられた魔槍をムンズと掴んだ。

槍に触れる事すら出来なかった事を思えば、大した進歩だ。

しかし。

「何をする気だ?」

「こんなに柄も石突も傷ついてしまって…」

己の得物の手入れもせぬとは何事だ、と。

一端に乙女は俺を叱る。

「柄の強度も問題ない。穂先も刃こぼれはしておらぬ」

「駄目だ。常に万全でなければ意味がなかろう」