次の日、運がいいのか悪いのか、わたしはバイトだった。

引っ越しの準備なんてもちろんしてない。あいつが勝手にやってるんだから、わたしだって勝手にする。


全て言いなりになんてなるもんか。なにもかも急すぎるんだよ。わたしの都合もお構いなしだなんてあんまりじゃないの。

結婚はするんだからわたしはわたしで好きにさせてもらうわ。


…なんて強気でいたものの、どこかで結婚が嘘であってほしいと願う自分がいる。


自分の知らないところで入籍したって言われても、実感なんてわくわけがない。本当か戸籍を確認しなきゃ。


…このまま普段通り生活していたら、独身も既婚もわからないよね。

誰にも言わず結婚のことは家族以外には隠し通そう。どうせ離婚するんだし。


バイト中、考えるのはそのことばかりだった。


──お客さんも残り一組になり、もうすぐ閉店の時間。


「華乃ちゃん、もう上がっていいよ」

「店長。いいんですか?」


五つ年上の店長は綺麗な容姿だけど気さくな性格で、入店してからずっとわたしのことを可愛がってくれている。すごく尊敬できる人。