初めて親父に感謝したいと思えた。

無駄な意地を、親父が取っ払ってくれた。

いつも何かのせいにしていつも何かに理由をつけて、自分の気持ちを誤魔化し続けていた。


あんたのお陰で向き合えた。

意地もプライドも逃げも屁理屈も、いらないものを脱ぎ捨てられる。


必要なものだけがあればいい。必要なことだけを信じればいい。

馬鹿は馬鹿なりに突き進む。


これが本当の「神田龍成」だ。




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「親父!!」


会社の社長室のドアを勢いよく開ける。


私服の上に全速力に近い速さで走っていた俺は途中ガードマンに止められそうになったが、秘書が社長の息子だと説明してくれ、問題なくここまで来れた。

これで親父がいなかったら間抜けだが、俺は運がいい。


「…騒がしいやつだ。静かに入って来れんのか」


椅子に座り親父は書類に目を通していた。相変わらずこの状況でも平然としている。

かなり走って息切れがひどいが、そんなことは気にしてられねぇ。