「─奏。世話になったな。彼女とうまくやれよ」


立ち上がり、少ない荷物をまとめ始める。


「龍成?お前…」

「帰るわ。俺のいるべき所に」

「…ばかやろ。気づくの遅すぎだ」


──やっとはっきり見えた。やっと決意できた。

俺のいるべき所、やるべきこと、ようやくがっつり心にはまった。


もう迷わない。


曇りがかった視界が何の邪魔もなく綺麗に晴れ渡る。こんなに気分がすっきりしたのはいつぶりだろう。


自分に正直になるのは、俺にとって最大の課題だったんだ。


荷物を持ち奏の家を飛び出す。

タクシーを拾った方が確実に早いのに、今の俺は自分の足で走る選択をした。


──あの親父が俺に頭を下げた。


ここまでされたら俺の進む道は一つしかない。

無我夢中で駆け抜ける。