「俺の場合、華乃と結婚したのが奇跡的だから」

「はい?」

「結婚なんてしたいと思ったこと一度もないし、これから先もしたいと思うことはない。だから俺の中で生涯奥さんは華乃一人だけ。たった一度の結婚も離婚も、華乃ちゃんだけだよ」


まともな結婚を避ける為の偽装結婚。

それでも結婚は結婚。


生きてきた中で、生きていく中で、俺の奥さんになった人は、この女ただ一人。


「……帰ろ」


少し俯きがちに一言告げ、エンジンをかける華乃。


「……」


その目にうっすら涙が見えたのは、気のせいだろうか。