部屋に戻ると崇憲は座ったままぼーっとしていた。


「送るから、行くよ」

「…飲み代」


はぁ。いつものことだけど今回は手切れ金だと思おう。


「はい」


お金を渡すと、崇憲は立ち上がり出掛ける準備をする。


この部屋も今日でお別れ。二年以上通いつめた思い出に浸っているうちに、崇憲は支度を終える。


二人で車に乗り込み店に向かう。どちらも無言のまま、なんとなく気まずい雰囲気。

先に口を開いたのは崇憲だった。


「さっきの話、本当に本当?」

「だからそうだって。わたしもう桜庭華乃じゃなくて神田華乃なの」

「…お前さ、もし俺が結婚しようって言ったらどうする?」


…胸が、鈍く動いた。


なんでそんなこと聞くの?どういうつもり?


「どうするもなにも、もう結婚しちゃってるし…」

「お前がいないと俺、生きていけないかも」

「何言ってんの。他に何人遊んでるのよ。わたしみたいな子がたくさんいるんだから、一人いなくなったところで変わらないでしょ」

「お前が一番だっていつも言ってただろ」

「一番都合のいい女でしょ?また作ればいいじゃん」

「なんだよそれ」