「なんでだ?」


お父さんは腑に落ちないという顔で春優君を見ていた。春優君はお父さんを横目に恵子さんを見た。


「恵子さんの事を嫌ってる訳じゃない。真面目にこの家と向き合ってくれて感謝してる…。」


恵子さんは春優君の言葉に目が潤んでいた。それから目を逸らした春優君は言葉を続ける。春優君の声は徐々に弱々しいものになっていく。


「…ただ、新しい家族で幸せになんて…母さんが可哀想だろ…。俺は、まだ忘れたくねぇだよ…。」


「そういうことか…分かった。春優の思うようにしなさい。…ただ分かって欲しい。父さんも母さんを忘れたわけじゃない。もちろん恵子さんも大切に思ってるが、お前達の為にも母親が居た方がいいと思ったんだ…。」


「ああ、分かってる。ありがとう、親父…。」


よかった…春優君とお父さん仲直り出来た。
これで事故は免れたよね。


話し合いが終わると春優君が送ると言うので、私と春優君は家を出て道を歩く。日はすっかり沈んでいて、辺りは真っ暗になっていた。