「俺には、美羽さんが必要です。傷つけて、捨てるくらいなら……俺にください」


――トクンッ。

今まで感じていた悲しみや胸の痛みは、棗くんの言葉に少しだけ和らぐ。


「お前……頭おかしいんじゃないか!?ガキが分かったような口をきくな!!」


「ガキでも、正しい事とそうでないことくらい分かります。だから、今のお父さんに美羽さんは返せません」


「あっ……」


そう言った棗くんに、グイッと引き寄せられる。

その瞬間に傘が落ちて、雨の中抱きしめられるような格好になった。


「でも美羽、美羽が望むのなら……手放してもいい」

「……え……」


棗くんは、私にしか聞こえない声で囁く。

それに、ドクンッと心臓が跳ねる。

棗くんと離れるのは……嫌だ。

棗くんといると、心がほっこりする、私がここにいてもいいんだって思えるのに……。