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私は、棗くんを送り出してから、5時間が経った。

時刻は14時、それまでは洗濯機を回したり、掃除機をかけたりと家事に精を出していた。

換気をしようと窓を開けると、空が灰色に曇っていることに気づく。


「棗くん、傘……持ってってないよね?」


今にも降り出しそうな雨。

お菓子を作って棗くんの帰りを待っていたかったけど……。

私は、ベッドの上に置きっぱなしの携帯を手に取る。

――プルルルルッ。

「棗くん、出るかなぁ……」

棗くんの家に居候させてもらった日に、連絡先を交換しておいて良かった。


――プルルルルッ、プツッ。

『もしもし、美羽……?』


すると、すぐに棗くんが出る。

少しくぐもった、低い声……。

なんだろう、いつもより暗いような気がするのは、気のせいかな?