そう文句を言おうとした瞬間、


「この温もりを……手離すのは……堪えるな」

「あ……」


その呟かれた言葉に、私は動きを止めた。

だって……棗くんの、悲しさが私にも伝わってきたから。

傍にいたくても、いられない場所へと旅立ってしまうことを、棗くんは言ってるんだ。


私を抱きしめる棗くんの背中に手を回す。


「傍にいればいるほど……美羽を好きになってく……。その度に、苦しくて……っ」

「棗くん……私も、同じだよ……っ」


重ねる時間が、触れる瞬間が多いほどに感じる。

止まらない好きという気持ちと、失う恐怖。


「それでも……離れるなんて、出来ないんだ……。一度この温もりを知ったら……二度と」

「うん……」


そう、知ったら最後……。

引き返せないほどの恋なのだと、思い知った。


「美羽……っ」


切なく私の名前を呼ぶ唇が、私のそれに重なる。

もう何度、この温もりに触れただろう。

私を求めてくれることが、すごく嬉しい……。

いつか、二度と触れられなくなったら……私は生きていけるのかな。