【美羽side】


***


「だから、俺にとって美羽はね……天使なんだ」


そう言って笑う棗くんに、忘れていた記憶が蘇る。

そうだ、私……入試の日に棗くんと出会ってた。


どうして今まで忘れてたんだろう。

そして本当に、棗くんは約束を果たしてくれたんだ。


「もう一度会いに来るって……約束……っ。棗くんは、私に会いに来てくれたんだね……っ」


辛くてボロボロで、世界にたった一人だと思っていた私を、救うために。


「美羽が入学してきたのは知ってたのに、いざとなったら恥ずかしくて……すぐには会いに行けなかったんだけど……」


「棗くん……」


「あと少ししか生きられないって知った時、真っ先にきみの顔が浮かんだんだ。今じゃ、もっと早く会いに行けば良かったって後悔してる」


困ったように笑って、棗くんは握ったままの私の手を見つめた。


「棗くん、それって……どういう気持ちから……」

「……俺に、それを言う権利があるのかな……」


悲しげに俯く棗くんに、ギュッと胸が締め付けられる。

棗くんは、私の元から去ってしまう。

だから、想いを伝えることを……躊躇ってるのかもしれない。


私は……どうしたいの?

私は……棗くんの口から、何を聞きたいんだろう。