そんなこんなで犬飼くんは、あたしの想像を遙かに上回るポジティブシンキングぶりで、あたしの作戦を次々に打ち破っていった。


あえて犬飼くんに聞こえるように「好きな人トーク」を繰り広げてみたり(好きな人のいるところではそんな話フツーしないでしょ?)。

朝のあいさつも、至極さらっとしたもので済ませてみたり(さして犬飼くんと話したいわけじゃないのよアピール)。

犬飼くんと廊下ですれ違っても、目も合わせず、喋りかけもしなかったり。

犬飼くんが授業中に寝てるとき、椅子をガツンと蹴ってみたり(犬飼くんの前で女の子らしくしようなんてこれっぽっちも思ってないのよアピール)。


………どれもこれもが不発に終わった。

犬飼くんは何にも気にするふうもなく、平然と過ごしていた。


しかも犬飼くんは、ことあるごとに振り返ってあたしに喋りかけてくるのだから、何も効果が出ていないと言わざるをえない。


―――それどころか。


「………最近さ。俺たち、なんか距離が縮まったよね……」


なんて爆弾発言を、ふふふと低く笑いながらされた日にゃあ、あたしはひっくり返りそうになった。


確かに、犬飼くんは以前にも増して話しかけてくるようになったけど!!

あたしも、犬飼くんなんか好きじゃないんですよアピールのために、わざと素っ気ない口調で話しかけたりしてるけど!!


距離なんか縮まってませんから!!

ってか、あたしは前より距離感じてますから!!


というあたしの心の叫びは、窓の外の青空に虚しく消えていった。