一つ上の階の女子トイレに駆け込んで事情を話すと、渚は憐れみの表情を浮かべた。


「………なにそれ。犬飼くん、マジやばいじゃん」


呆れ返っている渚に同意するようにこくこくとうなずきかけて、私は泣きついた。


「そーなの……。あたしが犬飼くんのこと好きとか、どうしてそんなこと思われてんだろ。完全に勘違いだよ……」

「いやー、だって犬飼くんだもん、思い込みとかめっちゃ激しそう」

「だよね………」


あたしと渚は顔を見合わせて、盛大なため息を吐き出した。


冷静に考えたらかなり失礼な言葉を連発していて犬飼くんには申し訳ない気もするけど、

こっちだって急に訳の分からない理由で勘違いされて混乱しているのだから、致し方ない。


別に、犬飼くんのことは嫌いなわけではない。

嫌うほど深く関わってないし。

挨拶するくらいのやりとりしかしていない。


けど、もちろん好きでもない。


ただのクラスメイトとしか思っていないのだ。

いや、ただの変なクラスメイトとしか。


「とりあえずさ、犬飼くんの勘違いを解消しなきゃね。とにかく、莉緒は犬飼くんのことなんか好きじゃないって思わせないと!!」


渚の素晴らしいご意見に、あたしはこくこくと頷く。


「なんだったら、他の男子が好きってアピールするのもいいんじゃ?」

「でもさ、それで犬飼くんがその男子うらんだりしたら怖くない?」

「たしかに……」


あたしたちはもう一度、はあっと息をもらした。