「え?」


「あの時……岸まで飛んで、助けを呼びに行った。だけどだれも俺の声に気付いてくれなかった。大声で叫んで助けを求めたのに、だれかの腕をつかんで無理やり引っ張っていこうとしたのに、何もできなかった……」


「で、でも、あの時、涼くんが……」


助けにきてくれたのに。


あれは昴が何かしてくれたんじゃなかったの……?


昴は無言で首を横に振る。


「俺は……梨沙に何もしてやれない。触れることも、頬についた生クリームをとってやることも、プレゼントを受け取ることも。そして……梨沙が危なくなった時に、助けてやることも」


つらそうな、声。


「だから……俺が今さら、どうこう言える立場じゃない」



「でも、でも……っ」


もどかしかった。


どうして昴がこんなに苦しんでいるのに、触れることもできないんだろう。


抱きしめて、何か言葉をかけてあげることもできないんだろう。


 ……いや、そんなこと、ない。

 私にだって、できることはある。