「リングと、これ、紙……?」


星の形をした小さなかわいらしいリングと、一枚の『Dearest』と書かれた手触りのいい立派な紙だった。


「プレゼント……だよ」


昴がぼそりと言う。


「プレゼント?」


「ああ。忘れたのかよ。十二時を過ぎた。今日は、梨沙の誕生日だろ」


「え……」


「一年遅れになっちまったけどな。――誕生日おめでとう、梨沙」


「あ……」


覚えてて、くれたんだ……


私自身ですらも、もうそんなことはほとんど忘れてしまっていたっていうのに。


「忘れるわけないだろ。好きな相手の誕生日を……」


「え……?」


今、何て言ったの……?


昴の方を見る。


そこには、真っ赤になった昴の顔。


さらに視線を送ると、頭に後ろ手をやりながら、昴は言った。


「だから……好きなんだよ」


「え……」







「俺は、梨沙のことが……好きだ」




「あ……」


それは、私が一番ほしかった言葉だった。


一年越しの、大好きな人からの告白。


涙が溢れて、止まらない。


うれしかった。


幸せだった。


今のこの時間が永遠に続けばいいと、本当にそう思った。


時間よ、止まって――


心の底から、そう願う。


そんな私に、昴は言った。


「……きっと俺は、これを梨沙に伝えるために、幽霊になったんだと思う」


そう言うと、昴はぎゅっと私を抱きしめた。


そこには確かに昴の身体の感触があって、『Starry sky』の香りがして、昴の身体の温もりが伝わってくる。


幽霊、なのに……


「俺は梨沙のことが好きだ。一年前も、今も、そしてこれからも、ずっと」


「昴……」


「だから、言う」


「え……」


「梨沙……死ぬな。絶対に。幽霊になって俺のところに来たりなんかしたら、またデコピンをして追い返してやるからな」


「それは、だけど」


「だけどじゃねーの。これはお願いじゃなくて命令。死なないでくれ、じゃなくて、死ぬな。お前の祖母ちゃんだって、きっと同じことを言うはずだ」


「でも……でも……つらいよ。昴のいない世界で、私だけ……」


「ばーか。一人じゃないだろ。お前には紗英ちゃんがいるし、涼だっている。クラスのやつらだって、みんなお前のことを気にしてるに決まってる。――それに」


「……?」


「俺はいつだって、空からお前のことを見守ってる。星になって、〝すばる〟になって……お前が涙を流す度に、光になって降り注いでやる。梨沙の名前がついた星の――『Dearest』の隣で、他のどの星よりも光り輝いて。だから……いつだっていっしょだ」


「星に、なって……?」


「ああ」


そう口にする昴の身体が、次第に薄くなり始めていた。


夜の闇に溶けるようにして、後ろの景色が透けていく。


「す、昴……」


やだよ……


このまま、また昴が私の前からいなくなるなんて、そんなのは嫌だ……!


だったらやっぱり、私も幽霊になって、昴の傍にずっといっしょにいたいよ……!


「梨沙」


昴が言い聞かせるように言う。


「俺たちは、いつだっていっしょだ。梨沙の心の中には俺がいて、俺の魂の中には梨沙がいる。絶対に、離れることはない」


「昴……」


「絶対に、だ」


そう口にすると、昴はさらに強く私の身体を抱きしめた。


それに応えるように、私も昴の背中に回した手にぎゅっと力をこめる。


「梨沙」


「昴……」


「梨沙……」


「昴……」


私たちは、何度もお互いの名前を呼び合う。


その存在を確かめ合うように。


そこにある想いを愛おしむように。




訪れる別れを……受け入れるように。


「梨沙、大好きだ……」


「私もだよ、昴……」


そして、私たちはキスをした。


ガラス越しじゃない、優しい温もりに包まれた口付け。


星の優しい光に包まれて、昴の身体が光の粒子となって空へと昇っていく。


目を開けた時、そこに昴の姿はなかった。


ただ〝すばる〟の蒼い光と、『Starry sky』の匂いだけが、うっすらと残るだけだった。