「あ……っ……!」


気付いた時には遅かった。


足もとから地面がなくなる感覚。


そのままバランスを失って、後ろに倒れこむようにして斜面へと身体が傾いていく。


斜面の先には、切り立った崖がぽっかりと暗い口を開けて待ちかまえているのが見えた。


まるで、あの世への入り口のような暗い闇。


あそこに落ちれば、私も昴と同じ場所に行くことができるのかな。


スローモーションの意識で、うっすらとそんなことを思ったその時だった。





「梨沙……っ……!」





懐かしい、声だった。


聞いているだけで、涙が出てきそうになるような声だった。


鼓膜に滑りこむその声とともに、私の右腕が何かにつかまれる。


「大丈夫か、梨沙……!」


「え……?」


思わず、自分の目を疑ってしまった。




だって。


触れていたから。




力強い昴のその手が……私の手を、しっかりと握りしめてくれたいたのだから。