「だ、だいじょうぶ、紗英……!」


「ん、平気平気。ちょっとかすっただけで……つっ」


「紗英!」


思っていたよりも血が出ている。


この怪我じゃ、紗英はもう進めそうにない。


こうなったら一回山を下りて、紗英を病院に連れていくしか……




「行って!」




と、紗英がそう叫んだ。


「でも」


「あたしはいいから。適当に下りるくらいなら一人でできるよ。それよりこの機会を逃したら、もう昴くんに会えないかもしれないんだよ! 梨沙はそれでいいの!?」


「……っ」


もう、昴に会えない……?


もう、二度と……?


そんなのは、嫌だ。


あの寂しそうな表情が、ガラス越しに触れ合った冷たい感触が最期だなんて……そんなのは……


だけど、こんな状態の紗英を放っておくわけには……


「……僕が残る」


「涼くん……?」


「……僕が何とかして、藤井を下まで連れていく。それなら、いいだろう」


それは、涼くんになら安心して任せられる。


でも、だからって……


「いいから行って!」


「紗英」


「ここであたしを気遣って、梨沙に後悔を残される方が、よっぽどしんどいんだって!」


その紗英の声が、最後の一押しだった。


「……分かった、ごめん……!」


「気にすんな、あたしはだいじょうぶ!」


そう声を上げながらぐっと親指を立てる紗英。



その後押しに――親友の気遣いに、私は心から感謝をこめてこう言った。


「……あと、ありがとう、紗英!」


「行ってこい!」



紗英の言葉を背中に受けて、私は走り出した。